ひと月ほど前、アルトゥール・シュナーベル(1882〜1951)演奏の
ベートーヴェン『ピアノソナタ全曲』(32曲 10枚組)のCDを、ネットを通じて入手。
1300円余(送料込み)という信じがたい廉価、
それでいて“非常に良い”の高評価。
現代のピアニスト、ヴァレリ・アファナーシェフの著したエッセイ、
『ピアニストのノート』中にしばしばトスカニーニを始め往年の大家たちが取り上げられ、
現代の演奏家たちと比較対照されていたことから、
“ピアノの神様”と渾名されていたシュナーベルも連想されたというのが、入手に関わる動機。
アファナーシェフは、現代の、取り分け若手の演奏家たちにつき、
音楽ビジネスの垢にまみれた、あるいは見世物的行き方を痛烈に批判しており、
それへの反例として往年の大家たちを参照しているわけだ。
アファナーシェフが少年時、
トスカニーニ指揮のヴェルディ『椿姫』前奏曲を聴き涙したエピソードに触れて、
偶々同演奏のCDを未聴のまま私も所持していたから早速それへ耳を傾けたところが、
大いに心揺さぶられ同じく涙した。
さて、シュナーベルの録音は今から90年ほど前と古いが、
デジタル化が良好なせいもあろう、十分に鑑賞に堪える音質だった。
それより、ほぼ初めてその演奏に接し、
次のようなメッセージが聞き取れるようで私は感銘を受けた。
―― 一日一日を生きていくことが作品(演奏)なのだ、と。
彼の一日は恐らく、ピアノへ向かうことから始まっただろう。
私自身のささやかな一日は、机へ向かうことから始まる。
無限の未来と可能性という作品を生み出すために。
シュナーベルは、
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲の初録音者(1930〜35)としても知れらている。 |
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