みんなの広場「こころのパレット」

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〈研修へ向けて N〉 引用
池見 隆雄 2018/11/19(月)14:28:22 No.20181119132004 削除
 「日赤」を午前中に退院し、
 私は自宅居間の置き炬燵に下半身を埋めて、横になっていた。
 頭痛はまだ私を手放さず、
 鎮痛剤が、病院からの退院土産ということろ。

 午後も遅くなって、固定電話のベルが鳴る。
 家内が受話器を取ると、相手方は村山先生だった。
 私に替わる可不可を先生が尋ねられたらしい。
 家内が振り向いて、「出られる?」と問う。

 時間からして、研修の2日目終了後、掛けて来て下さったのだろう。
 受付、お世話の事務局員へ、私の退院の日取りを多分伝えていて、
 村山先生が私の容態なりを彼女に尋ねられたときに、
 それも伝え聞かれたのだろう。

 研修の様子、成果は少なからず気になっており、
 またそれに加われなかったことが大変悔しくもあったわけだから、
 私は直ぐに、起き上がって行った。
 
 「多少、頭痛がある他は、もうほとんど普通です」
 と私は応答する。
 電話の奥から、参加者方の昂揚した話し声や、哄笑も伝わってくる。

 「Fさん(私の代役を引き受けて貰った)の良きサポートもあって、
  どうやら無事に終了したから、安心して下さい」
 と、いつにも増して快活な声音で告げられる。

 お礼を述べる一方で、
 ファシリテーターの役目を果たせず仕舞いになったのが、
 一入(ひとしお)悔やまれてきた。

 先生は、Fさんへ、電話を替わられる。
 彼女からも、安堵感と達成感とが、こちらへ滲透してきたのではなかったかと思う。
 私はその労をねぎらったのかもしれないが、
 そのときの言葉の絡み具合を少しも記憶していない。

 寧ろ後日、Fさんと顔を合わせたとき、
 私と“グループ”的場を頻回、共有してきたが故に、
 その形態に於ける私の重心の置きどころを汲んで、
 研修2日目も1日目同様の在り方で進めていただくことを、
 結果はどうであれ、先生へ、選択肢として差し出して貰えたかを尋ね、
 そうではなく、その点については、両日とも村山先生にお任せしたと聞くと、
 もし自分が加われていたなら、前年同様、2日目は、
 参加者の方々へフィードバックするという、先生主導の方式で進めることを望まれたとして、
 村山先生のスピーチが進行の鍵には違いないけれど、
 ゲスト、参加者諸共の、巧まざる、個々の内省由来の会話こそが主体の、
 前日の継承を一応は主張させていただいたろうと、
 Fさんへ叱責口調で述べたことを明瞭に記憶している。

 彼女にしてみれば、
 それは随分と理不尽な言い分だと感じられて不思議はない。
 私は彼女に予め、そうした自分の信条の引継ぎを、口頭で依頼したわけでもなく、
 彼女は企業内研修のベテラン指導者ではあっても、
 グループのファシリテーターはほぼ未経験といってもよかったのだから。

 私にはそのとき既に、
 自分の強い口調には、“グループ”的研修の機会を逃した八つ当たりが込められていると、
 後ろめたく自覚されていた。
 しかし、大本には、たとえゲストの村山先生が、私の側の主張を容れられ、
 それによって不自由になられたり、その豊富な経験に基づく目論見を挫(くじ)くことになろうと、
 私がファシリテーターを務めさせていただく、あるいはその研修を協会主催で開かせていただく以上は、
 “グループ”として最も意義深いと思われる在り方への強い傾倒が、
 信条さながら燃え盛っていたのも事実。

 もし、その炎が伏せられ、私の内面が燻(くすぶ)ったままに「語り手EG」の幕が閉じられたとすれば、
 エンカウンター・グループの恩師ともいうべき村山先生へ対して、
 私は「自己一致」しない――己を偽ることになる。
 そして私自身は、ファシリテーターたる者が「自己一致」してこそ、
 グループ全体の心理的安心・安全が保全されると確信していたのだった
 ――その点は、現在も、不動といってよいか。

 Fさんはその後NPO法人を立ち上げられ、その活動に専念されているはずだが、
 もし再会のご縁が得られれば、
 私の理不尽――我がままを、許して貰おうと思う。


 そして、明年1月下旬、10年ぶりに、
 村山先生をゲストに迎えての「語り手EG」を開くことができることになった。
 今度こそは、研修の進行への先生の心積もりをじっくりとお聴きし、
 また妥協でなく私の信条もそれに融和させていただけたらと願う。

 具体的にそれがどういう様相を呈するかは、そのときへの期待としようと思う。
 ――先生は近年、体力への負担を考慮されて、EGから離れておられると風のたよりに聞いていたが、
 思い掛けず、当方からの依頼に、快く応じて下さった。
 文字通り、望外の喜び。

                            (続く)

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