チビ(オス2歳。3匹の黒猫兄弟の長兄)が10日間行方をくらまし、
次の日の夕方、やっと戻ってきた。
私はほとんど再会を期していなかったが、
読書を一区切りした目を、何気なく協会事務局の入り口に向けると、
網戸の直ぐ向こう、踏み台の上にネコがうずくまっている。
チビの普通なら、後脚で立ち上がって網をバリバリと引っ掻くのだが・・・。
近寄ってみれば、まるで盲いたように両眼は固く閉じられており、
口元も妙な具合に形が崩れている。
目ヤニ、ヨダレ。
戸を引いてやると、辛うじて中へ歩を運ぶ。
背に当てた手が直かに骨にさわるかのようにやせている。
翌々日、妻の協力を得て動物病院へ。
例によって、まず大き目の洗濯ネットに封じ込め、
キャリーバッグごと私の膝の上に乗せて。
そのときちょうど、車外に雨滴が落ち始めた。
ネコは衰弱しているからといって、診察台に乗せられれば
恐怖からパニックになる結果、室内を逃げまどい、荒れ狂うことがあると、
以前にその老医師から釘を刺されていたが、
チビは、点滴の針を刺されるにも任せていた。
その夜は初めて、事務局内で過ごさせた、
食物と水を置き、また排泄用のシートを部屋の一隅に敷いて。
(私の帰宅時には、天候に拘わらず、“庭猫”の彼を、必ず外に出すのを習慣としてきた。)
翌朝、チビの具合、また排泄の具合に不安を覚えつつ、廊下側のドアを開ける。
前夕は、事務机の椅子のクッションに半ば死んだように丸まっていた彼が、
すぐ前に立っていて、か細い声で鳴く。
食物を摂ろうとする欲求を覚えるくらいに回復しているのだ。
彼は徐々に快方へ向かいつつある。
それを目の当たりにさせて貰えるのは嬉しいことだ。
一旦は死の淵に臨んだほどだったのだから尚更である。
他の4匹の猫たちも何かと手が掛かるが、
それぞれの個性的な形で、私の生活力に寄与してくれている。
チビの回復を機に、
跡絶えがちな私の文章にも、手をつけようかな。 |