チビの遺骸を埋めたのは、
協会の庭の、隣家と境する塀の直ぐ内側にそそり立つ、
銀木犀からほど遠からぬ場所。
私は今日まで、これに優る木犀の大木を、
他で目にした覚えがない。
表層の土を多少とも取り除けば、
大小の根に行く手を阻まれるのは言うまでもない。
しかも、こちらの道具は、かよわい移植ごてのみ。
途方に暮れかけ、腰を上げて、他を物色してみもするが、
種と数の双方で、中央部を例外としてこの庭では、
樹々相互が肌を寄せ合うほどだ。
難儀に違いなければ、最初の着想にこそ従おうと思い直す。
しかし、想定していた深さまでは到底不可能と、判断せざるを得なくなった。
中ほどの太さの根で、穴の平面のほぼ真中上方に、
あたかも橋のように渡っているのを潜らせて、
白色の薄布で覆ったチビの遺骸を横たえる。
両耳と、その間の頭部のみが布の一端から覗いているのだが、
生命現象とは無縁のそれらと百も承知で、
撫でている私の手先。
穴を掘る過程で、
透明感のある白色の、5センチに満たない何かの幼虫に、陽の目を見させてしまった。
彼はさも迷惑そうに、仰向いた身体を屈伸させて止まない。
幼虫を、彼の恙(つつが)ない成長を願って、
忘れずチビの傍らに添え埋め戻しに掛かる。
大粒の激しい雨が、不意に地表を叩き出したのは、
あらかたそれが完了した矢先。
頭上の木犀の密な葉叢が、その半ばを撥ね返す。
強暴な夏の日差しも、和らげられるはず。
これらが実は、私がその地を選択した理由の一つ。
もう一つは、
中秋を過ぎ掛けると、銀木犀の細やかな花弁の夥しい落下が、
そのあたり一帯をびっしりと銀黄色に荘厳する。
――その様を、私は曾ての書き込みに、
「黄金色の絨毯、秋の王様の戴冠式」 と表わしてみた。
高々、猫一匹と言う勿れ!
移植ごての作業に取り掛かって間もなく、
少年時の私に馴染み深い(多分、映画を通じて)、古い軍歌の一節が脳裏に蘇ってき、
少なくも数日、断続的に意識の一角を占めていたのだから。
「・・・友の塚穴掘ろうとは――」 と。
|