みんなの広場「こころのパレット」

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〈共に行けるまで〉 引用
池見 隆雄 2019/8/16(金)14:29:13 No.20190816140046 削除
 チビがこの世からいなくなって3,4日後だったろうか?
 夕方、庭を見通せる協会の応接間
 ――とは現在は名ばかりで、実際は、ネコ部屋という方が適切――
 で私は、帰り支度をしていた。

 日中は大抵開け放っているガラス戸口から、
 チビの弟の一方、ジロが、誇らしげに頭を擡げて入ってくる
 (もう一方のイチは、既に私の傍らに、横ざまに寝転んでいたが)。

 こういう態度のときは何か獲物を得たのであり、
 果たして口中から、ヒゲもどきのものがはみ出ている。
 彼が私の前へ来かかって、ぽんと床へ放り出したのを見れば、
 それは、昆虫の肢に他ならなかった。

 全部の肢を天井へ向けて、不器用にモゾモゾ動かしている様子から、
 はじめ黄金虫の類かと想えたが、
 それにしては、丈が長過ぎるし、身体の輪郭線にも破綻が窺える。

 猫たちにとって小動物ほど、
 狩猟者の性(さが)と、遊び心(?)双方を掻き立てられる対象は、
 他にはあるまい。
 ところがジロは、無傷のまま運んできたに止まらず、
 離れた場所で毛繕いに余念がない。
 イチもまた、いわゆる猫パンチさえ見舞おうとしない。

 ジロの態度を譬えてみるなら、
 珍奇、もしかすると貴重な品を入手したので、
 自分たちへの日頃の私の世話へ対する返礼に、手付かずで進呈しよう、
 とまぁそんな具合い。

 手に取り上げれば、
 思いがけなさでは珍奇、しかし、その心の反応の質へは、
 貴重という形容の方が似つかわしく思われた。
 何十年ぶり実物に接する、羽化する前の蟬。

 翌日の明け方前後にそれを実行するべく、地中から這い出たところを、
 目ざといジロに見咎められたのだろう。
                       (続く)

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