みんなの広場「こころのパレット」

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〈晴れやかに〉 引用
池見隆雄 2022/7/25(月)15:16:34 No.20220725151108 削除
 今月19日、午前5時〜6時の間に、母は息を引き取った。
 確かな時は不明、というのは、そのとき、
 医療関係者、親族の誰も、付き添っていなかったということ。
 「ひとに迷惑を掛けたくない」を最もすばやく念頭に浮かべやすい
 母らしい最期ともいえるか?

 その前日、親族が見舞いに訪れても、目も口も閉じられたままだったという。
 息遣いが多少乱れていたのが、
 親族が歌を歌って上げると、安らかさへ移行したとのこと。
 それを聞いて、私は、遠い昔を思い出した。

 私が幼稚園児の頃だ。
 母が子供向けの歌の本(絵本)を求めてき、手仕事の合間、
 それを眺めやりつつ私に歌って聞かせる、というより楽しんでいるふうだった。
 五線譜も添えられていたので、母は未知の曲でも、
 音符を辿ることによって、直き歌の体(てい)にすることができた
 ――私には魔法のようにも思えたのだった。

 しかし、それ以降、今日まで、母の歌声を聞いたためしがない。
 家庭内の人間関係の難しさや、
 心身医学(後の心療内科)を我が国に根付かせようと躍起になっている父を、
 心身両面でバックアップすることで、
 そんな心のゆとりも、時間のゆとりも持てるはずがなかった。

 人としての軛(くびき)から解き放たれ棺の中へ納められた母へ対していると、
 「歌うように、晴れやかに見送ろう」
 との感慨に捉われる。

 享年98(あと2ヶ月余生き延びていれば99)。

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