私の母は大変犬好きだったので、そのためばかりではないが、
曾ては、種々の犬が、ほとんど途切れることなく我が家に飼われていた。
――曾てというのは、私が、結婚して自家を出る前後まで。
そして、この何年くらいだろうか、私の甥は、自分の祖母に、
誕生日ごとに、犬の縫いぐるみをプレゼントしていたらしい。
私はその事実を、葬儀の当日に初めて知った。
だいたい、二階の母の寝室をでも飾っていたのかその実物を見たこともなかったし。
仮祭壇が母宅の仏間に設えられたのも葬儀の当日。
その翌日、祭壇の前に据えられた小机に、大きな耳の垂れた犬の縫いぐるみが、
前脚を机に置く姿勢で、母の遺影をじっと見つめているのに気付いた。
甥の仕業と想われる。
彼の気持ちを、作り物に込めたのだろう。
その目は、あたかも生けるもののように、潤った表情をたたえている。
祭壇と縫いぐるみの絡み具合が、一目で私には愛らしく印象付けられ、
やがて、双方の写真を別に撮影し、横並びにフェイスブックへ投稿しようと意図された。
翌午前、「母の遺影を見つめるワンちゃん。今月19日、母、他界。享年98」
という文を付して投稿した。
十名余の方が、リアクションやコメントを送信して下さった。
そのどれも、私の母の喪を悼んで下さっている。
大変ありがたいと共に、私の構図への関心をも感じ取っていただけただろうかという、
不躾で欲張りな疑心も湧いた。 |