先週火曜日の午後2時過ぎ、協会事務局の温度計は、29.6度を示していた
――なるだけエアコンを入れたくないという、非現実的な私の拘りも奏効して。
ふと、自宅のサスケ(手乗り文鳥)の、その日の境遇が思い浮かべられた。
家内は、正午ごろから、「市民劇場」主催の観劇へ出かけていた。
でなければ、協会の仕事を手伝ってくれた後、遅くとも午後4時過ぎには帰宅する。
このシーズンに留守するとき、家内は、エアコンを27度に設定してリビングを冷やした後、
他の部屋との境の板戸など閉め切って、
扇風機の風が、軽くサスケを撫でるような按配を怠らない。
その日も同様だろうと推測されたものの、
友人たちと観劇へ出かけたとなると、帰宅は平生より大幅に遅れるのが常であったし、
午後4時過ぎでさえリビングの室温は30度を超えている事実を、
これまで既に何度か家内自身が確認していたから、まして・・・と私には、
夕刻までのサスケの無事がとても危ぶまれた。
観劇中と承知しながら、ラインで、「サスケ、大丈夫かな?」 と打診してみたが、
それでこちらの心中の動揺が鎮まるわけでなし、
どうせならと机の前から立ち上がる。
日盛りのアスファルト道をバイクで走っていると、
何かの焦げつくような臭気が鼻をついた。
その刺激によって更に危機感が煽られ、ハンドルを握る手に力が入る。
玄関からの廊下とリビングとを隔てている、6つに区画されたはめ殺しガラスのドアの手前から、
サスケの鳴き立てるのが聞き取れてまずは安堵の吐息がもれる。
籠の前面の餌箱の上へ来て、「出して」と求めてやまない彼女に敢えて取り合わず
(一旦、放してやると、直ぐには元へ戻るのを肯じないので)、
視線を走らせた温度計の数値は、29.6度と協会のそれに等しい。
扇風機の律儀な首振りの送風には休んでもらい、エアコンを入れる。
(続く)
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