一昨日の日曜日、昼食後、車で近傍の農村へ出かける。
鎮守に参礼した後、その裏の農道を歩き始めて間もなく、
私の直ぐ後ろからついて来ていた家内が、虚を衝(つ)かれたかのような悲鳴を上げるので、
振り向きざま足元へ目視を落とすと、
S字形に身をくねらせた縞蛇が、鎌首をもたげていた。
体長1メートルくらいだろうか。
互いにその態勢のまま数秒(家内によれば10秒ほど)が過ぎたところで、
私にしては珍しく携帯していたスマホで写真を撮ろうかと思い付いたが、
と同時に相手は、境内との境をなす元の斜面の草むらへ這い込んで行く。
尻尾の先を震わせて、「ビーン」と聞き取れる異音を発しつつ。
尻尾を引っ張ってやろうかといういたずら心の私に兆したのを覚(さと)ったのでもあろうか?
家内が、「ガラガラ蛇みたいね」と冷静さを取り戻して評する。
後で思い返してみると、蛇と対峙していた数秒、ないし10秒ほどの間、
内面には、喜びはもとより恐れや敵対心、また欲といった動きはほぼ皆無だったように思う、
譬えれば、何らの影も宿さず、静まり返っている池の面、
覗き込めば、水底の砂や何かが、くっきりと見て取れる、
あるいは、一言に言えば透明なひととき。
そこへ撮影して他の人へも分かとうという欲のさざ波が立ったとき、
相手も動き出した。
何にしろ、その遭遇の前、うだる蒸し暑さに閉口していたのが、
その後では、残暑という気候を肌身に味わうといった
懐かしく清新な心持に切り替わっているのに気付かざるを得なかった。
早や実りかけた一面の早稲の田、
頭上隈なく広がる藍(あい)を湛(たた)えた空、
重厚で多彩なオブジェめいた雲・・・・・。
妻が証言するには、蛇は、斜面を滑り落ちてくる具合で、
全く唐突に、前後する私と妻との間に身を現したという。
この小文を記しつつ私は、
彼が“存在”のレベルで、私たちと同等であることを暗示せんと欲したのでは、
と疑い始めている。
あまりに唐突な出現が、私の内に透明な時間を喚(よ)び越こし、
そうした質感の出会いを可能にした!?
――人の上に神なく人の下に生物なし。
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